【終末期透析の実際】透析患者さんのご家族に知っておいてほしいこと【緩和透析】

終末期 : 死が避けられないと、医師によって判断される時期。
今回の記事で透析患者さんのご家族に知っておいてほしいことは、
『透析患者さんが終末期を迎えたとき、ご家族(本人)の希望があれば、透析を拒否することが出来る』ということです。
また、『透析の中止』と『透析の継続』の二択だけではなく、近年では『緩和透析』と呼ばれる選択肢も提唱されています。
今回は、終末期の患者さんに対して行われる血液透析の実際を、医療従事者の視点からまとめたいと思います。
終末期の透析患者さんの実際
血液透析を受けている終末期の透析患者さんは、想像を超える苦痛を訴えてきます。
彼らは、終末期症状の進行による痛みや苦しみに加えて、透析による苦痛にも耐えなくてはなりません。
そして徐々に、透析を辞めてほしい一心で、透析中に暴れたり、透析の回路を引き抜こうとする危険行動に至ります。
我々医療従事者は、ベッドからの転落や、回路の抜針を防ぐため、そのような危険行動が出た場合、手足を縛ったり、身体が動かないような抑制をします。
体の自由を奪われた透析患者さんは、さらに苦痛に顔を歪ませ、
「痛い」
「苦しい」
「どうしてこんなことするんだ」
「もうやめてくれ」
そういって必死に痛みや苦しみに耐えています。
透析を続ける限り、患者さんは週に3回、3~4時間の間、この苦痛に耐えなければいけません。

終末期と緩和ケア
終末期と呼ばれる状態になると、透析をしているかどうかにかかわらず、多くの患者さんが痛みや苦しみをかかえます。
ただでさえ苦しい終末期。
そんな状態で透析を行わなければならない患者さんたちの苦しみは、外からは想像しきれないものがあります。
透析患者さんに対する緩和ケア
終末期は、痛みだけではなく、息苦しさや気持ちのつらさなど、様々な苦しみと戦う必要があります。
そんな患者さんの苦痛を取りのぞき、患者さんとご家族にとって、自分らしい生活を送れるようにするためのケアを緩和ケアと言います。
具体的に、緩和ケアとは、病気による「つらさ」を和らげて、その人らしく過ごせるよう支える医療・ケアのことです。
腎不全患者に対する緩和ケア
2025年に、日本透析医学会から、『腎不全患者のための緩和ケアガイダンス』というガイドラインが提唱されています。
そこには、終末期における透析患者さんの苦痛や、その苦痛をどのようにして取り除かれるべきかが記されています。
〇透析による苦痛
〇透析を中止することによる苦痛
二つの苦痛にアプローチして、死までの苦痛を最小限にする治療を続ける『緩和透析』の考えについても記されています。
緩和透析:透析のつらさを軽減するために
2020年に日本透析医学会から公開された「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」の中で『緩和透析』の考え方が明確にされています。
緩和透析ってなに?
- 透析を”とにかく続ける”だけにしない
- 透析を”ただ中止する”わけでもない
- 苦痛を減らし、QOLを重視する
- 透析時間や回数の調整
- 食事制限の解除
つまり、緩和透析は、緩和ケアの考え方を透析においても実践するということです。
緩和透析は、「透析をやめること」だけを意味するわけではなく、
“少しでも楽に、穏やかに生活できるよう支える”
ための医療です。

日本と海外の終末期に対する考え方の違い
アメリカやイギリスなどの諸外国では、終末期の透析患者さんに対し、積極的な透析治療は行わないことが多いい印象があります。
それは、アメリカやイギリスにおいては『患者の意思や生活の質を重視した最期を迎えるべき』という考え方が一般的だからです。
それに対し、日本の医療現場では、『終末期に透析を行わない』という選択肢は、非常に少ないと感じます。
それに加えて、米国や欧州と比べると、日本では透析患者さんへの緩和ケアがまだ十分に行き届いていないのが現状です。
理由は様々ありますが、諸外国においては、
『終末期の患者さんに対する過度な延命行為を倫理的に問題視する国が多い』
ことが大きな理由の一つであると感じます。
透析や胃ろうなどの医療行為を「延命行為」と捉え、「延命行為」に対して批判的な国が多いということです。
それに対し、日本では、『延命治療でもなんでも、家族にはなるべく永く生きていて欲しい』という考えが一般的だと感じます。
どちらの考えが正しいという話ではありませんが、私は日本の緩和ケアが遅れている理由の一つに、死に対する向き合い方の違いを感じています。

終末期を迎えた透析患者さん
終末期を迎えた透析患者さんは、非常に多くの苦痛と戦うことになります。
『腎不全患者のための緩和ケアガイダンス』では、その苦痛の種類について示されています。
終末期を迎えた透析患者さんが持つ身体症状
- 痛み
- 倦怠感
- 睡眠障害
- 掻痒感(かゆみ)
- 悪心・嘔吐
- 下肢のむずむず
- 呼吸困難
- 便秘
- 浮腫(むくみ)
- 精神的苦痛
終末期の透析患者さんはこれだけ多くの苦痛と戦わなければならないのです。

ご家族から見た終末期の透析患者さん
堀川恵子さんが『透析を止めた日』というノンフィクションドキュメンタリーを出版しています。
末期腎不全の父が「透析をやめる」という決断を下し、 その最期の時間を家族がどう受け止め、寄り添い、見送ったかを描くノンフィクションです。
延命治療としての透析のつらさを、家族目線で非常に分かりやすく書いている一冊で、同じ境遇のご家族には是非読んでいただきたい一冊です。
終末期の透析患者さんに対してご家族ができること
終末期医療は、人生の最終段階を穏やかで充実したものにするための大切なケアです。
しかし、大切な人の死期が近づいているという現実は、精神的に大きなショックと悲しみを引き起こします。
まずは、ご本人の現状を受け入れ、自身の感情を整理することが重要です。
次に、大切なご家族が穏やかに最期を迎えられるよう、心身の両面から支える方法について考えてみましょう。
ご家族がまず考えるべきこと
「何を優先するか」
- 少しでも長く生きることを優先するのか
- 苦痛や通院負担を減らすのか
を、ご家族も考えなくてはいけません。
この優先度を曖昧にすると、医療側は、基本的に①(少しでも長く生きることを優先させる)を選択します。
その結果、患者さんが苦しんでいても、治療を止められないケースも出てきます。
そのため、”終末期”と呼ばれる状態になる前に、本人としっかり話し合いをして、意思確認をしておくことが非常に重要です。
ご本人の本音確認
日本では、終末期の透析患者さんに対して、ご家族が
『透析を止めると言ったら見捨てるみたい』
と感じやすいとされています。
実際は、
- 本人が何を望んでいるか
- どこまで治療を望むか
が最も大切です。
もし透析を中止するとしても、透析の中止は『見捨てている』のではありません。
ただ、『患者さん本人の意思を尊重している』のです。
② 医療側に遠慮しない
現状、終末期の透析患者さんに対しては、医療者側から積極的に「緩和」の話をしない施設の方が一般的です。
そのため家族側から、
- 苦痛を減らしたい
- 透析条件を軽くできないか
- 在宅支援はあるか
- 緩和ケアは使えるか
など、患者さんの苦痛を少しでも減らすことが出来るのか、積極的に聞いてみてください。

終末期の透析で大切なのは「何を大事にしたいか」
終末期では、
『正解の選択』
はほぼありません。
透析を続けても、やめても、家族は後悔します。
だから大事なのは、
『本人が何を大事にしたいか(したかったか)』
ということだと感じます。
そのため、日頃から、ご家族で「人生の最期をどのように過ごしたいか」について話し合い、お互いの考えを共有しておくことが大切です。
また、終末期の透析治療は、「続ける」か「中止する」かという二択だけではありません。
患者さんの苦痛や生活の質(QOL)を大切にしながら透析を行う「緩和透析」という考え方もあります。
ご本人やご家族の希望に合わせた選択肢の一つとして、知っておいていただければと思います。















