【医療事故】透析室で起こる事故【死亡事故】

血液透析は、30万人以上の患者さんが同じように取り組んでいる、確立された治療方法です。
治療内容や安全管理が確立されているため、忘れられがちですが、血液透析はリスクの高い医療です。
2021年に行われた調査では、血液透析における重篤な医療事故は473件発生しています。
※ここで重篤な医療事故とは、『死亡あるいは生命を脅かす可能性の高かった事故、入院あるいは入院期間の延長が必要であった事故,2 人以上の患者に同時に発症した集団発症事故のいずれかに該当する事故』とされています。
参考文献;日本透析医会雑誌 Vol. 38 No. 3 2023 2021 年透析医療事故と医療安全に関する調査から
透析室では実際にどのような事故が起きているのか、上記文献を参考にしながら、まとめていきます。
透析室での医療事故
透析医会によって調査された、2021年の透析治療における重篤な医療事故は473件発生しています。
そのうち、患者さんの死亡に繋がった事故は15件でした。
その内訳は以下のようになっています。

※このグラフは、2021年におきた重篤な医療事故の内訳です。重篤な医療事故とは『死亡あるいは生命を脅かす可能性の高かった事故、入院あるいは入院期間の延長が必要であった事故,2 人以上の患者に同時に発症した集団発症事故のいずれかに該当する事故』とされています。
そのため、軽症で済むような事故は含まれていません。
透析室で起きる危険な事故は、
- 抜針事故
- 転倒・転落事故
が半数以上を占めていることがわかります。
抜針事故
透析中に針が抜けてしまう事故です。
頻度が高いわけではないですが、重篤な事故につながりやすい、危険な事故です。
透析治療は2本の針を刺して行います。2本の針は、それぞれ「送血側/脱血側」と呼ばれます。
脱血側の針
「動脈側」「赤い方」「A側」などと呼ばれることもあります。
この針は血液を体の外に出すための針です。
脱血側の針が抜けてしまうと・・・
透析回路内に空気が混入します。
すると、透析装置の「気泡センサー」によって、空気誤入が検知され、血液ポンプが止まります。
しかし、針が抜けてしまうと、シャントから大量の血液が出血しますので、一刻も早く止血を行う必要があります。
そのため、迅速に対応できれば、重篤な事故には繋がりにくい方の針です。
送血側の針
「静脈側」「青い方」「V側」などと呼ばれることもあります。
ダイアライザーを通って、毒素や水分が除去された血液を、体内に戻すための針です。
抜針してしまって危険な針は、送血側の針です。
送血側の針が抜けてしまうと・・・
血液流量と同じ速さ、つまり1分間に200~400ml/minのスピードで血液が棄てられることになります。
早ければ2~3分で、出血量が致死量に達してしまうことがあります。
また、状況によっては、警報が鳴らないケースもあるため、注意が必要です。
実際に、重症化した事故の多くは静脈側であったと報告があります。

抜針事故の原因
2021年、患者さんに重篤な影響のあった抜針事故(152件)の原因は以下の通りです。
2021年:患者さんに重篤な影響を与えた抜針事故
- 自己抜針 (65件)
- 自然抜針 (32件)
- 牽引抜針 (29件)
- 不明の抜針 (17件)
- 不完全抜針 (4件)
- スタッフによる誤抜針 (3件)
- カテーテルの自己抜去 (2件)
自己抜針
自己抜針は、自分で透析の針を抜いてしまう行為です。
自己抜針65件のうち、46件で認知症や精神疾患を有する患者さんで起きた事故のようです。
私自身も認知症・精神疾患のある患者さんに、目の前で針を抜かれた経験が2回ほどあります。
本来は、自己抜針のリスクが少しでもある患者さんには、薬で眠ってもらうか、動けないようにベッドに縛り付けるべきなのですが、そのリスクの判断は難しいと感じます。
また、裏を返すと65件のうち19件が認知症や精神疾患を持たない患者さんということになります。
この19件の詳細の方が気になるところですが、確認手段がないため、ここでは深追いしないことにします。
自然抜針・牽引抜針
回路の固定が甘かったり、針が浅いなどの理由で、自然に針が抜けてしまったり、体動によって針が抜けてしまう事故です。
透析中によく動く患者さんは、
- 回路の固定はしっかりしてもらうこと
- 針の浅め固定はやめてもらうこと
は意識するようにしてください。
特に透析中に熟睡して、なおかつ寝相が悪い方は要注意です。
不完全抜針
針が体の外には出ていないが、血管の外に出てしまっている状態です。
つまり、針の位置が下図のような位置にある状態です。

送血側の針がこの状態だと、血液が血管の中に入らず、皮下組織の中に溜まっていってしまうため、非常に危険です。最悪の場合は、シャント肢の壊死に繋がります。
このような事故もあるので、針の浅め固定は、極力やめてもらうようにお願いしましょう。
抜針事故による死亡
2021年の抜針事故全体(軽微な影響の事故も含む)は、1857件の事故があったようです。
そのうち、患者さんが死亡してしまった事故は5件だったそうです。
死亡事故に繋がった抜針事故
- 体動による抜針であったがアラームが鳴らなかった
- 認知症・せん妄のための自己抜針
- 希死念慮のあるがん末期患者の自己抜去
- 個室透析でアラームの対応が遅れた
- アラームが鳴らなかった送血針の不完全抜針
2000件近い抜針事故から、死亡が5件という数字は、決して多いとは言えません。
しかし、死亡につながる事故が年間2000件近く起きているという事実に対しては、病院やクリニックが真剣に取り組まなくてはいけない課題です。
転倒・転落事故
2021年、患者さんに重篤な影響のあった抜針事故(79件)のうち、患者さんが死亡してしまった事故は3件だったそうです。
その他、転倒による骨折が41件、脳出血が9 件報告されているようです。
死亡事故に繋がった転倒・転落事故
- 透析後の更衣室内での転倒および急変
- 透析中のトイレ離脱中の転倒
- 透析前更衣室内での転倒による大腿骨骨折後の手術後死亡
死亡事故は、更衣室やトイレといった、スタッフの目が届かない場所で起きていることが分かります。
透析患者さんの転倒は、非常に多く、また、重症化されやすいとされています。
特に透析中や透析後には、血圧が変動しやすいので、十分注意して行動するようにしてください。
転倒・転落は透析後に要注意!
2021年の転倒・転落事故全体(軽微な影響の事故も含む)は、1857件の事故があったようです。
その詳細は以下になります。

透析患者さんの転倒・転落の特徴
- 転倒・転落は透析後に多い
- 75歳未満の患者さんでも半数近くが転倒している
除水によって水分を失った状態であり、起立性低血圧などの影響もあって、透析後は、転倒のリスクが高いことが分かります。
転倒した患者さんのうち、半数近くが75歳未満です。
「若いから大丈夫」
という考えはやめましょう。
若くても、透析後には転倒の危険があることを知っておいてください。
転倒のリスクに備えた行動をお願いします。

その他の死亡に繋がった事故
2021年に起きた事故のうち、死亡例に繋がってしまった事故は以下のようなものがあります。
透析の医療事故による死亡例
- 透析後、止血不十分で帰室し、大量失血。
- 穿刺ミスをした部分が腫脹してしまい、その部位の止血が不十分で壊死してしまった。
- 医療者のプライミングミスにより、大量失血。
- 透析中/透析後の合併症(4件)
透析中/透析後の合併症は、透析中/透析後に他の病気が原因で亡くなってしまったケースです。
脳出血、脳梗塞、呼吸不全、突然死が含まれているようです。
患者さんとスタッフ、みんなで作る医療安全
透析室に限らず、医療事故は完全に防ぐことは難しい問題です。
しかし、患者さんに重篤な影響を与えてしまうような事故は、なくすことを目標にしなければいけません。
患者さんからの厳しい視線も、医療事故を減らす重要な要素の一つです。
透析室でどのような事故が起こり得るのかを知っていただいて、医療従事者の行動に注意を払い、医療の安全を守っていきましょう。
それでは素敵な透析ライフをお過ごしください。
















