【貧血】透析患者さん:最近のヘモグロビン事情

透析患者さんの合併症の一つに『貧血』があります。
貧血は簡単にいうと、「血が足りなくなる」症状です。
血液は、全身の臓器に酸素を運ぶ大事な役割をしています。
その血液が足りなくなることで、息切れや、めまい、動悸、頭痛、胸痛など、全身症状があらわれます、
透析患者さんにとっては避けて通れない合併症である貧血。
今回はその貧血の診断に使用される「ヘモグロビン」の値についてまとめています。
検査結果:ヘモグロビンとヘマトクリット
Hb(ヘモグロビン)とHct(ヘマトクリット)は、透析患者さんが定期採血で気にする数字の一つだと思います。
Hb : ヘモグロビン
「赤血球」という細胞の中に存在しているのがヘモグロビンです。
そしてヘモグロビンは、全身に酸素を運ぶためのたんぱく質です。
主に
- 肺で酸素と結びつく
- 全身の臓器に酸素を届ける
といった役割をこなしています。

ではヘモグロビン値はどの程度が良いのでしょうか。
腎機能が正常な人のヘモグロビンの正常値
〇男性・・・13.5~17.0 g/dl
〇女性・・・11.5~15.0 g/dl
※日本臨床検査医学会により提唱されている正常値です。
透析患者さんのヘモグロビンの目標値
〇週初めの採血で10~12g/dl
※2015年版「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」より
Hct : ヘマトクリット
貧血を判断するのに「ヘマトクリット値」を使っている施設もあるかもしれません。
ヘマトクリット値とヘモグロビンの違い
ヘマトクリット値は、血液の中で“赤血球が占めている割合”を示します。
ヘモグロビンは、赤血球に存在するヘモグロビンの量を示しています。
現在、貧血の診断に使用されるのは主にヘモグロビンなので、本記事でも主にヘモグロビンの値を使用して貧血の説明をしています。
透析患者さんの貧血【腎性貧血】
腎機能が低下すると、血液を造る能力が低下して貧血になります。
厳密にいうと、腎機能によって、エリスロポエチンが産生されなくなるために貧血になります。
エリスロポエチン・・・血液を造るのに必要なホルモン。
腎不全によってこのホルモンが産生されなくなる。
それによる貧血を腎性貧血と呼びます。
ヘモグロビンの値の異常
透析患者さんのヘモグロビン値の目標値である
「週初めの採血で10~12g/dl」
という数字は、様々な研究から推測された、「透析患者さんにとって最も予後が良いと思われる数字」です。
2019年~2021年における、透析患者さんのHb値と死亡率の関係が、奈良県立医科大学腎臓内科の孤杉 公啓先生と 鶴屋 和彦先生により公表されています。

この図では、透析患者さんのHb値が低すぎても高すぎても死亡率が高くなることを示しています。
この図を見ると、「週初めの採血で10~12g/dl」という目標値は妥当な数字に見えますね。
ヘモグロビン値が低い
ヘモグロビンの値が低いということは、全身の臓器に酸素が届きにくくなるということです。
そのため、
- だるさ
- 疲れやすさ
- 息切れ
- めまい
- 動悸
- 頭痛
- 不整脈
- 胸の痛み・圧迫感
などなど、様々な全身症状が表れます。
ヘモグロビンが少し低いくらいなら症状はでないことが多いと思いますが、8.0g/dl未満まで貧血が進むと、だるさやしんどさなどの症状が出てくるような印象を受けます。
ヘモグロビン値が高い
それでは、ヘモグロビンの値が高いと何が悪いのでしょうか。
ヘモグロビンが高い状態は、血液が濃い状態と表現されます。
血液が濃いと、血栓や脳梗塞などのリスクが上がることが確認されています。
- 脳梗塞・心筋梗塞(最も重要)
- シャント閉塞
- 深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)
など、自覚症状には表れずらいですが、非常に重要なリスクが伴います。
特に透析患者さんの場合、脳梗塞や心筋梗塞などに対しては、ヘモグロビン値以外にも様々なリスクを抱えているので、ヘモグロビンの管理は重要なものになります。
1990年より前の貧血に対する治療
1990年以前の腎性貧血に対する治療は、輸血がメインで行われていました。
1990年以前の輸血は、C型肝炎ウイルス(HCV)の有無の検査が行われていませんでした。
- C型肝炎ウイルス(HCV)に感染している方の献血
- 輸血が必要な患者さんにそのまま投与される
- 輸血によってC型肝炎ウイルス(HCV)に感染
透析患者さんは輸血が頻回に必要だったため、透析患者さんにHCV感染者が爆発的に増えてしまった時代でした。
そのため、1990年にエリスロポエチン製剤が保険適応となり、透析患者さんに対する輸血の使用量が減ったことは、透析患者さんにとっては大きな出来事であったと言えます。
1990年以降の腎性貧血に対する治療
貧血のお薬入れますね~
透析終了後にスタッフがそんなことを言いながら注射を入れられている患者さんは多いと思います。
1990年以降は、透析患者さんの貧血に薬が使われるようになります。
貧血の薬にはどんな薬があるのか、まとめてみました。
- ESA製剤
- 鉄剤
- HIF-PH阻害薬
1.ESA製剤
腎機能の低下によって産生されにくくなったエリスロポエチンや、それに似たホルモンを人工的に作り出して投与しています。
エリスロポエチンは、人が血液を造るのに必要なホルモンであり、腎性貧血に対する最も一般的な治療薬です。
ESA製剤の中にも種類があり、週3回投与が必要なものや、週1回で良いもの、さらには月一回で良いものもあります。
週3回の投与が必要な薬
透析後に毎回投与されます。
以下の薬が使用されています。
- 協和キリン株式会社:エスポーⓇ
- 中外製薬株式会社:エポジンⓇ
週に1回の投与で良い薬
遺伝子の組み換えが行われており、投与頻度が週に1回となります。
以下の薬が使用されています。
- 協和キリン株式会社:ネスプⓇ
月に1回の投与で良い薬
こちらも遺伝子の組み換えが行われており、投与頻度は月に1回になります。
以下の薬が使用されています。
- 中外製薬株式会社:ミルセラⓇ
2.鉄剤
血液を製造するためには、エリスロポエチンの他に、「鉄」も必要になります。
食事制限などの影響で体内の鉄分が不足していると、鉄剤も併用されることがあります。
主に以下の薬が使用されています。
- 日医工:フェジンⓇ
※内服薬を処方されている患者さんもいると思いますが、透析患者さんでは主に注射薬を使用する方が一般的です。
HIF-PH阻害薬
2019年に保険適応となった、腎性貧血に対する新しい内服薬です。
HIF-PH阻害薬のメリット
- 飲み薬である
- 鉄の利用効率を高める作用がある
- エリスロポエチン製剤が効きにくい患者さんにも使用できる
HIF-PH阻害薬の注意点
- 血栓症、高血圧などの副作用
- 実績が不十分なため、副作用に注意が必要
HIF-PH阻害薬は多くのメリットがありますが、まだエビデンスの集積が不十分ということもあり、今後の展開に期待されるお薬です。
現在の日本では、以下の薬が使用されています。
- エベレンゾ®(ロキサデュスタット)
- ダーブロック®(ダプロデュスタット)
- バフセオ®(バダデュスタット)
- エナロイ®(エナロデュスタット)
- マスーレッド®(モリデュスタット)
透析患者さんと貧血【近年の推移】
透析医学会は、透析患者さんの貧血について調査し、公表しています。

透析患者さんのヘモグロビンの目標値は、週初めの採血で10~12g/dlとされています。
ヘモグロビンが10g/dl未満の患者さん
2010年・・・30.2%
2022年・・・16.8%
この数字を見ても、腎性貧血に対する治療が確立されてきていることが分かります。
透析史に残る画期的な薬;ESA製剤
1990年に保険適応となったESA製剤は、透析患者さんの健康寿命を飛躍的に伸ばすことになる画期的な薬です。
しかし、現在の腎性貧血に対する治療は、ESA製剤だけでなく、鉄剤やHIF-PH阻害薬などの選択肢も組み合わせながら進めていきます。
どの治療にもメリットと注意点があり、医師やその他スタッフと一緒に調整していくことが大切です。
この記事が、治療を理解するための小さな手がかりになれば幸いです。
それでは素敵な透析ライフをお過ごしください。
















