HBV(B型肝炎ウイルス)やHCV(C型肝炎ウイルス)という言葉を聞いたことがあると思います、

感染すると、肝臓の炎症、肝硬変、肝がんなど、重症化する可能性があることで有名です。

HBVやHCVは、血液を媒介として体内に侵入して感染するウイルスです。

透析患者さんの場合、傷口や透析回路などから、HBV/HCV陽性患者さんの血液(ウイルス)が体内に侵入する可能性があり、透析患者さんはHBV/HCVに感染しやすいとされていました。

しかし、近年は治療薬の進歩や、透析施設における感染対策の徹底が進み、HBV/HCV陽性患者さんの数は減少してきています。

透析患者さんのHBV(B型肝炎ウイルス)感染率

透析医学会は、透析患者さんのHBs抗原陽性率を統計調査しており、わが国の慢性透析療法の現況で公表しています。

HBs抗原陽性は、『現在B型肝炎ウイルスに感染している』ことを示します。

以下、その調査結果を引用します。

わが国の慢性透析療法の現況(2024 年 12 月 31 日現在);透析患者さんのHBs抗原陽性率

ちなみに、調査が行われた年のみの陽性率を示しており、未調査の年のデータは含まれていません。

透析患者さんのHBV陽性率

  • 透析患者さんのHBV陽性率は年々減っている
  • 2024年時点で、透析患者さんのHBV陽性率は1.2%
  • 日本の一般人口におけるHBV陽性率は0.8%とされている

透析患者さんのHBV感染率(年齢別)

年齢別のHBV感染率

  • 20代~40代の若年層は陽性率が0.5%と低値
  • 年齢層が上がるとともに陽性率も増加している

透析をしていない人のHBV(B型肝炎ウイルス)感染率

これだけじゃ透析をしていない人に比べて、HBV陽性患者が多いのか分からない!

ということで、厚生労働省が調査している、初回献血者集団におけるHBs抗原陽性率と比較してみます。


http://肝炎等克服政策研究事業(厚生労働科学研究)ウイルス肝炎eliminationに向けた全国規模の実態把握及び 将来推計のための疫学研究より引用

グラフの青い点が最新(2017年~2021年)の調査結果です。

一般人口におけるHBV感染率(2017年~2021年)

  • 若年層(40歳未満)におけるHBV感染率は0.05%~1%と低値
  • 70歳以上の高齢層でも、陽性率は1%未満
  • 40歳以上におけるHBV陽性率は0.6%

つまり、若年層については一般人口と比較してもそれほど感染率に大きな差は出ていないように感じます。(統計処理等している文献は見当たらないので、差がないと断言はしません)

しかし、40歳以上におけるHBV陽性率は、透析患者さんの方がやや高いように感じます。

透析患者さんのHCV(C型肝炎ウイルス)感染率

透析医学会は、透析患者さんのHCV抗体陽性率も統計調査しており、わが国の慢性透析療法の現況で公表しています。

HCV抗体陽性は、『現在C型肝炎ウイルスに感染している、もしくは過去に感染していた』ことを示します。つまり、すでにウイルスが体内から排除されていても、HCV抗体は陽性を示します。

以下、その調査結果を引用します。

わが国の慢性透析療法の現況(2024 年 12 月 31 日現在);透析患者さんのHCV抗体陽性率

ちなみに、調査が行われた年のみの陽性率を示しており、未調査の年のデータは含まれていません。

透析患者さんのHBV陽性率

  • 透析患者さんのHCV抗体陽性率は年々減っている
  • 2024年時点で、透析患者さんのHCV抗体陽性率は3.3%
  • 日本の一般人口におけるHCV-RNA陽性率は0.3%~0.8%とされている

HCV抗体陽性=HCV-RNA陽性ではないことだけ注意してください。HCV抗体陽性の方には、『過去に感染して現在はウイルスが排除されている方』も含まれています。そのため、HCV抗体陽性より、HCV-RNA陽性の方が少なくなります。

透析患者さんのHCV抗体陽性率(年齢別)

年齢別のHCV抗体陽性率

  • 20代~40代の若年層は陽性率が0.6%と低値
  • 年齢層が上がるとともに陽性率が大きく増加している

透析をしていない人のHCV(C型肝炎ウイルス)抗体陽性率

非透析患者さんのHCV抗体陽性率も、厚生労働省による疫学調査:初回献血者集団におけるHCV抗体陽性率と比較してみます。

http://肝炎等克服政策研究事業(厚生労働科学研究)ウイルス肝炎eliminationに向けた全国規模の実態把握及び 将来推計のための疫学研究より引用

グラフの青い点が最新(2017年~2021年)の調査結果です。

一般人口におけるHBV感染率(2017年~2021年)

  • 若年層(40歳未満)におけるHCV抗体陽性率は0.1%~0.2%と低値
  • 年齢層が上がるとともに陽性率は増加しているが、多くの年代で1%未満である

HCV抗体検査においても、HBs抗原検査と同様、若年層については一般人口と比較しても、それほど差はないように感じます。

しかし、40歳以上におけるHCV抗体陽性率は、一般人口と比較するとかなり高くなっているように感じます。

ここで気を付けてほしいのは、HCV抗体陽性の場合、過去に感染していたが、現在は感染していない方も含まれているということです。

そのため、HCV抗体が陽性だからと言って、現在もHCV患者だというわけではありません。

これから説明しますが、透析患者さんは、過去にHCVに感染するリスクが非常に高い時期がありました。

40歳以上におけるHCV抗体陽性率の高さは、その時期に感染してしまったことが原因ではないかと思われます。

HBV/HCVの歴史

透析患者さんにおいても、透析をしていない方においても、若い人のHBV/HCV感染率が低いということが分かります。

若い人はHBVやHCVにかかりにくいの?

というわけではなく、実際にはHBV/HCVの発見や、それに対する対策が行われたのが1972年以降であることが主な原因となっています。

http://肝炎等克服政策研究事業(厚生労働科学研究)ウイルス肝炎eliminationに向けた全国規模の実態把握及び 将来推計のための疫学研究より引用

このイラストは、厚生労働省ホームページで公表されているものです。

このイラストを見て分かる通り、HBVやHCVの発見から対策に至るまで、その歴史は浅いのです。

HBVが発見されたのは1969年、HCVにおいては1989年です。

輸血内のウイルスの有無を検査するようになったのが、HBVの検査は1972年、HCVの検査は1990年です。

そのため、昔はウイルスに対する知識がありませんでした。

  • HBV/HCVの検査をしていない輸血の投与
  • 注射針の使いまわし
  • 防具なしの性行為

など、様々な感染経路から感染していたことが、高年齢層に陽性者が多い大きな理由です。

現在の若年層にHBV/HCVの陽性患者が少ない理由

→日本の懸命な対策のおかげ

といっても過言ではないと思います。

透析患者さんの高年齢層にHBV/HCV陽性者が多い理由

HBVやHCVへの対策が行われる前の感染の原因は

  1. 腎性貧血による輸血
  2. ずさんな感染対策

①腎性貧血による輸血

腎性貧血
透析患者さんは腎不全により、血を造る能力が低下してしまい、『腎性貧血』になります。
1990年以前、腎性貧血に対しては輸血が第一選択
エリスロポエチン製剤と呼ばれる、腎性貧血に対する注射が保険適応になったのが1990年。それ以前は貧血に対して輸血で対応していた。
輸血内のC型肝炎ウイルス検査は1990年から
輸血内にC型肝炎ウイルスが存在しているかどうかを検査するようになったのが、1989年~1990年から。
輸血後肝炎の発生
輸血内のHBV/HCVによって、輸血された患者さんが肝炎ウイルスに感染し、肝炎を発生する事例が増えた。

②ずさんな感染対策

有名な院内集団感染の事例があります。

兵庫県の透析クリニックによる集団感染

1999年、院内感染が原因と考えられるHBVによる劇症肝炎患者が発生。

血液透析患者8名がHBVに新規感染。このうち6名が劇症肝炎で死亡。

さらに、このクリニックの維持透析患者123名のうち、98名(79.7%)がHCVに感染していた。

感染の原因として、生理食塩水や注射器の使い回しなど、クリニックの感染対策がずさんであったことが報告されている。

この事例の他にも、2000年代は多くの透析施設で、HBV/HCVの集団感染が報告されています。

感染対策に対する意識が希薄だった時代に起こった悲しい事故でした。

現在の感染率は非透析患者さんと大差ない

HBVやHCVに対する知識や対策がまだ未熟であった時代、血液を体外に出して、複数の患者さんが治療を行う血液透析という行為によって、多くの患者さんが感染してしまったことは事実です。

そのため、高年齢層の透析患者さんは、一般人口と比べるとHBV/HCV感染率が高くなっています。

しかし、若年層の感染率は、一般人口と比べても大きな差がなくなってきています。

若年層の感染率が低下した理由

  • 透析施設に対する感染対策の浸透
  • エリスロポエチン製剤(腎性貧血の薬)の出現による輸血量の低下
  • 輸血に対するウイルス検査の徹底

透析患者さんにできること

在宅透析の方はともかく、施設で血液透析を行っている以上、感染のリスクが全くないわけではありません。

そのため、透析患者さんも、身を守るためにHBV/HCVに対する防衛策をしっかりとってください。

HBVに対する防衛策

HBVは一度感染すると体内からの完全排除は困難です。

そのため、HBワクチンを接種することによって、HBVへの感染そのものを阻止することが重要です。

HCVに対する防衛策

HCVに対するワクチンは現在、存在しません。

しかし、治療薬の進歩が著しく、現在は副作用を少なくして、根治を目指せる薬(DAAs)が保険適応で使用可能です。

透析患者さんへの治療効果が99.0%ともされていて、非常に優秀な薬です。

HCVに対して、定期的な検査(最低でも1年に1度)を行い、万が一感染していたら、肝臓内科など、専門の病院を受診するようにしてください。

現在では対策も一般化してきて、そこまで怖い病気ではなくなったHBV/HCVですが、重症化してしまった場合は治療は困難を極めます。

日頃の意識で必ず防げる病気なので、検査とワクチン接種は必ず行ってほしいと思います。

それでは素敵な透析ライフをお過ごしください。

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佐藤さん
病院に勤めて15年。 様々な患者や医師、看護師などの医療関係者と関わってきました。 透析の話を中心に、病気の話、患者の話、スタッフの話、病院内での様々な話を投稿したいと思っています。