透析患者さんが透析に来ないとどうなるの?【透析の拒否】【実体験を含めて解説】

透析の現場で働いていると、
もう透析したくないです。
とおっしゃる患者さんがいます。
その中で、本当に透析に来なくなってしまう患者さんも、実際にいらっしゃいます。
そのような患者さんはどうなってしまうのか。
体験談を含めてまとめたいと思います。
なかなか透析に来ない患者さん(Aさん)
今日も透析行かないよ。
透析日にその連絡だけくれるAさん。
Aさんは、透析をしたくないとの希望があり、週に3回行うべきの透析に来てくれなくなりました。
Aさんは、大体2週間に1~2回程度、苦しくなった時に自己判断で透析をしに来院するようになりました。
透析に来なくて大丈夫なの?
透析治療は、『週に3回行わないと死んでしまう』と認識している方もいらっしゃると思いますが、実際はすぐに亡くなるわけではありません。
腎臓の残っている機能や個人差がありますが、透析患者さんが透析をしなくなると、10日ほどで亡くなる可能性が出てくると言われています。
ただし、食生活や検査結果に大きく左右されるので、絶対に試したりしないでください。
呼吸困難
Aさんは大体2週間に1~2回程度、透析をしに来院していました。
苦しい。
限界だから透析して。
必ずそう言って透析を受けに来ていました。
透析をしていない間、何をしているのか尋ねると、
苦しくて動けないからずっと横になってる。
横になるのがつらくなったら透析に来る。
そう言っていました。
それならちゃんと透析に来れば良いのにと伝えてみると、
嫌。
とのことでした。
Point : 透析をしないとなぜ苦しくなるの?
肺水腫になるため
腎不全となり、おしっこが出なくなると、体の中に水分が過剰に溜まってしまいます。
心臓にも過剰に血液がが溜まり、心臓の動きが悪くなります。
すると、肺の血管から水が溢れてきてしまい、肺水腫となって、呼吸困難となります。
肺水腫については、関連学会ホームページに分かりやすくまとめられています。

血圧の乱高下
Aさんの透析開始前の血圧は、毎回200mmHgを超えていました。
しかし、Aさんは毎回大量の除水を行っていたため、透析中に失神してしまうこともしばしばありました。
失神時は、血圧の値が測定できないほど血圧が低下していました。
失神するほどの血圧低下はもちろんのこと、血圧の過剰な変動も、生命予後に影響するとも言われています。
そのため、たまに透析にきて、無理やり除水を行うという透析スタイルは、Aさんの身体に悪影響を与えていたことは間違いありません。
Point : 除水量はどれくらいが適正なの?
体重の6%未満
透析治療では、身体に溜まった余計な水分を捨てる、除水という工程を行います。
Aさんの場合、透析時には、毎回体重の8~9%程度の除水を行っていました。
透析医学会のガイドラインでは、透析間の体重増加は6%未満に抑えるべきだとされています。
ガイドラインの基準と比べると、Aさんの体重増加量がどれほど多いかがわかると思います。
リン・カルシウムの異常な高値
Aさんの採血結果では、リンやカルシウムが非常に高い値となっていました。
透析医学会のガイドライン(2025年改訂)では、リンとカルシウムの目標値は以下の値に設定されています。
- リン(P):3.5 mg/dL 以上 5.5 mg/dL 未満
- カルシウム(Ca):8.4 mg/dL 以上 9.5 mg/dL 未満
個人情報ですので、詳細な数字は載せませんが、リンに関しては目標値の倍以上の数字になっていました。
Point : リンやカルシウムが高いとどうなるの
死亡リスクとの相関
リンやカルシウムの値が管理できていないと、心臓や血管が石灰化してしまったり、骨が脆くなる原因となったりします。
さらにこうした状態が続くと、突然死などのリスクも上がるとされています。
そのため、透析医は、リンやカルシウムの管理を厳格に行うのです。
充分に透析を出来ていなかったAさんのリンやカルシウムの管理は不十分でした。
そのため、Aさんの血管は高度な石灰化になっており、穿刺時にかなり力を入れないと針が血管に入らないくらい、硬い血管になっていました。

40代の透析患者さん:5年生存率は80%以上にも関わらず
DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)などの国際的な研究では、40代と比較的若い透析患者さんの5年生存率は、80%以上と高い数字を示しています。
5年生存率とは、透析を始めてから5年後に、何%の人が元気で生きているかを示す数字です。
Aさんは、40代で透析を導入していましたが、残念ながら5年以上の生存が出来ませんでした。
一般的な生存率と比べると、かなり早い段階で亡くなってしまったと感じます。
透析患者さんの年齢層ごとの生存率は国内のみでの研究は行われておらず、国際的な研究機関のみで行われています。40代の透析患者さんの5年生存率については、以下の研究機関で行われている値を参考にしています。
40代の透析生存率
① USRDS(United States Renal Data System)
35–44歳の5年生存率:80〜85%前後
45–54歳の5年生存率:70〜80%前後
② ERA-EDTA(欧州腎臓学会)
40–44歳の5年生存率:85%前後
45–49歳:80%前後
③ DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)
40–49歳 : 80%後半
透析の中断は『苦痛を伴って』亡くなる可能性が高い
『透析の中断』で最も有名な事件が、2018年の公立福生病院の透析中止事件だと思います。
当該事件については、透析医学会のホームページでも取り上げられています。
この事件でも、透析の中止を希望した患者さんが、
『透析の中止がこんなにつらいなら、やっぱり透析をしてほしい』
と訴えていたそうです。
福生病院の透析中止事件の患者さんに限らず、透析の導入や透析を拒否する患者さんはたまにいらっしゃいます。
しかし、そのような患者さんの多くは、苦しさに我慢できず、救急車を呼んで、緊急透析を受けることが多いと感じます。
透析を中止するということは、『苦痛を伴った後に、亡くなってしまう』可能性があるということを知っておいてほしいと思います。
透析を自己判断で中止することのリスク
透析を中止すると、すぐに亡くなるわけではありません。
長い期間、つらい息苦しさが続き、苦痛を伴って死に至ってしまう可能性があるのです。
ここでは、透析の中止が正しいのか正しくないのかという議論はしません。
しかし、『透析を辞めたい』という考えだけで透析を中止することは、患者さんに大きな苦痛が伴う可能性があります。
透析という、一生付き合っていかなければならない治療ですが、正しい知識を持って、治療に向き合っていただきたいと思います。
この記事がその一助になれば幸いです。















