透析条件:抗凝固薬とは?

透析患者さんによって、透析をするときの条件は千差万別です。
患者さんそれぞれの個人差、条件を決める医師の好みによっても全く違う透析条件になります。
そんな透析条件の中でも、今回は抗凝固薬についてまとめてみました。
抗凝固薬ってなに?
そもそも抗凝固薬とはなにか。
人間の血液は不思議なもので、「自分以外の何か」に触れたときに固まろうとする力があります。転んだりして血が出たときに、浅い傷なら放っといても勝手に血が止まるのはこの力のおかげです。
私生活においてはとても便利なこの力ですが、透析においては少し邪魔な力になります。
透析をする際に必ず使用する透析回路やダイアライザーなどに対して、血液は必ず「自分以外の何か」と判断します。
すると血液は固まろうとする力を発揮して、回路やダイアライザーの中で固まってしまうため、そのままでは透析が出来ません。
そこで使用されるのが「抗凝固薬」というものです。
抗凝固薬は、血液の固まろうとする力を邪魔します。この薬を適量使用することで、回路やダイアライザー内で血液が固まることなく、透析が出来るようになるのです。
抗凝固薬は主に「血液サラサラの薬」なんていわれて説明されてると思います。
では抗凝固薬にはどのような種類があるのでしょうか。

抗凝固薬の種類
透析で使用される抗凝固薬の種類には以下のものがあります。
抗凝固薬の種類
- ヘパリン
- 低分子ヘパリン
- ナファモスタットメシル酸塩
- その他
ヘパリン
透析治療で最も一般的な抗凝固薬です。抗凝固薬として第一選択の薬です。
なぜ一番使われる薬なのかというと、
安くて、使いやすいからです。
ヘパリンは透析以外の様々な治療でもとても頻繫に使われています。
様々な診療科で使用されているということは、医師が使い慣れている薬でもあるため、第一選択としてヘパリンが使われます。
使いやすいという理由の一つが、「薬の効果を簡単に測定できる」という点です。
「ACT(エーシーティー)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
ACTは、ヘパリンの作用を透析中に即時評価できる検査です。透析中に薬の効果を測定できるというメリットは非常に大きく、実際に透析治療においては、透析中にACTを測定して、患者さんに使用するヘパリンの量を決定しています。
また、ヘパリンにはその作用を中和できる「プロタミン」という薬もあります。ヘパリンが“使いやすい”とされる背景には、このプロタミンの存在も含まれています。
ちなみに、ヘパリンの原料は豚の腸粘膜です。豚の内臓からこんな便利な薬が作られるのすごいですよね。
さらにヘパリンの中和薬であるプロタミンは鮭の精巣(白子)です。
透析の治療に豚の内臓と鮭の精巣が使われてると考えると、研究者の皆様に頭が下がる思いです。(厳密にはプロタミンなんか透析ではあまり使われませんが)

ヘパリンを使用できないケース
透析では第一選択となるヘパリンですが、以下のような場合には、使用できないこともあります。
- 抜歯後や手術後など、ヘパリンによって血が止まらなくなる可能性がある場合
- HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)の患者さん
ヘパリンを使えないケース①
抜歯後や手術をした後などに、傷口が治りきっていないとき、ヘパリンなどの薬を使うと出血が後押しされてしまいます。そのため、出血が止まりにくくなる恐れがあるので、大きな傷や処置を受けた際には、必ず担当医へ相談してください。
特に、抜歯については、「大したことないだろう」と思ってしまうようで、抜歯したことを透析スタッフに伝えない方がたまにいらっしゃいます。そのような状態でヘパリンを使うと、口の中から大量に出血してあふれ出てしまうので、必ず事前にお知らせいただくようお願いいたします。
ヘパリンを使えないケース②
HITはヘパリン起因性血小板減少症といって、簡単に言うと、ヘパリンが体内に入ると、血が固まってしまう症状です。
HITの患者さんの場合、ヘパリンを使用しても(ヘパリンを使用したせいで)透析回路やダイアライザーが固まってしまい、透析が継続できないことがあります。
また、回路やダイアライザーが固まるだけなら良いのですが、患者さんの体内で血が固まってしまった場合、脳梗塞や心筋梗塞などの危険な状態になることも考えられます。
発症頻度は0.5%~5%ですが、ヘパリンを使用している透析患者さんの数を考えるとそこまで珍しい数字でもありません。
もし、医師から「あなたはHITです。ヘパリンを使用することは出来ません」と伝えられた場合は、必ず覚えておくようにしてください。
そして、他の透析施設で透析をする場合や、病気で他の病院に入院した時などは、必ず自分がHITであることを医師や看護師に伝えるようにしてください。
通常は、自身の透析をしている施設から、これから透析をする施設へお手紙が届くので、そのことは医師や看護師も共有しているはずです。そのため、HITであることを伝えても、多くの場合は
「大丈夫です。分かってますよ~。」
と言われて終わりだと思います。
しかし、医療事故を起こさないためにも、HITであるということを周りに伝えるということは、自分の安全を守るために必要な行動です。
低分子ヘパリン
低分子ヘパリンとは、上述したヘパリンという薬のうち、分子量が低いものだけで構成された薬です。分子量とは、要は薬の成分の大きさだとイメージしていただければ良いかなと思います。
難しいですよね。意味が分からないと思います。
なんで分子量を小さくする必要があるのか。
一説によると、低分子ヘパリンを使用するようになったきっかけは、
「分子量が小さいものを集めたら、なんか良い薬が出来たから」
だそうです。やってみた的なノリでやってみたら出来た薬だそうです。
ざっくりいうと、豚の内臓の成分の中から小さいものを集めたらいい薬が出来たということで、本当に研究者の方々には頭が下がる思いです。
そして、ヘパリンに比べて、低分子ヘパリンの優れている点が以下になります。
- 薬が効く時間が長い
- 透析など、血液を外に出す治療に効果的
- 出血しづらい
- HITのリスクが低い
などです。
ヘパリンに比べて優れている点の多い低分子ヘパリンですが、実際に治療で使われている割合としては、ヘパリンを使用している患者さんが約80%、低分子ヘパリンを使用している患者さんが約20%ということです。なお、この使用割合については、実際には、透析患者さんの抗凝固薬を毎年調べている学会はないので、数年前に私が学会で聞いた内容になります。
しかし、病院で働いていても、低分子ヘパリンを使用している患者さんは明らかに少ないです。
なぜ、優れているはずの低分子ヘパリンよりもヘパリンの方が使われているのか。
お値段が高いから
透析の治療では、この抗凝固薬は保険請求ができません。厳密にいえば、包括方式と言って、透析1回の治療で請求できる金額は決まっていて、抗凝固薬の値段はその中に含まれており、どんなに高い抗凝固薬をどれだけ使おうと、病院やクリニックが受け取れるお金は同じ金額になってしまうのです。
現在の診療報酬の点数はとても低く、透析業界も可能な限りの経費削減に追い込まれています。
そのため、薬の効果としては優れている低分子ヘパリンよりも、ヘパリンを使う割合が増えてしまうのです。
補足として、ヘパリンが悪い薬というわけではありません。実績も申し分なく、透析を行う上では全く問題なく使用できる薬なので安心してください。

低分子ヘパリンを使用するケース
上述した通り、低分子ヘパリンは値段が高いため、敬遠されがちな抗凝固薬です。
そんな中で、低分子ヘパリンが使われるケースは以下になります。
- HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)
- 軽度の出血リスクがある患者さん
低分子ヘパリンが使用されるケース①
HITにより、ヘパリンを使用できない患者さんには、低分子ヘパリンが使用されることがあります。
元は同じヘパリンなのに、低分子のものだけにすると、HITのリスクも下がるという、不思議な現象のためです。
実際にこの低分子ヘパリンについては、なぜHITのリスクが下がるのかなど、解明されていない部分も多いので、HITの患者さんに対しては、低分子ヘパリンも使わないという医師もいます。
低分子ヘパリンが使用されるケース②
軽度の出血のリスクがある患者さんに使用される場合があります。
しかし、「出血のリスクが低い」だけで、出血のリスクがないわけではないので、抜歯後や手術の後などに使われることはほぼありません。
他には、ヘパリンが効きづらくて、透析回路やダイアライザーが固まってしまう患者さんなどに低分子ヘパリンを使ってみると、意外としっかり効いてくれたというケースなどに使われることもあります。
ナファモスタットメシル酸塩
ナファモスタットメシル酸塩は、元々は膵臓の炎症に対して使用される治療薬です。「フサン」と呼ばれることも多いです。
この薬には、血液が体外に出たとき、血液が固まろうとする力を防ぐ効果もあるため、透析の分野でも使用されるようになりました。
ナファモスタットメシル酸塩の優れている点はただ一つ。
「透析の回路内でのみ効果を発揮する」
という点です。つまり、そのため重度の出血リスクのある患者さんに使用できるということです。
そのため、抜歯後や手術後の透析では、この抗凝固薬が使用されます。
ナファモスタットメシル酸塩のデメリット
ナファモスタットメシル酸塩のデメリットはいくつかあります。
- お値段が高い(低分子ヘパリンよりも高い)
- 効果が弱すぎるため、透析の回路やダイアライザーが固まりやすい
- アレルギー反応が強い
メリットが一点に特化しているだけあって、抗凝固薬としての能力はヘパリンや低分子ヘパリンよりも明らかに弱いです。
特にアレルギー反応には注意が必要です。
アレルギー反応によって、アナフィラキシーの症状が現れることがあります。透析の場合、開始してから15分から30分後くらいに血圧が急激に下がり、意識が消失します。
発症頻度は決して多くありませんが、重篤な症状につながることがあります。透析中に、胸や喉が痒くなるなど、違和感を感じたら早めに透析室のスタッフに声をかけてください。
また、一度そのような経験をしたら、必ず覚えておいてください。
そして、病気で他の病院に入院した時などは、必ずナファモスタットメシル酸塩でアレルギーが出たことを医師や看護師に伝えるようにしてください。
多くの場合は、自身の透析施設からその情報は共有されているはずですが、医療事故を防ぐためにも、自身のアレルギーの内容を周りに伝えるということは、自分の安全を守るために必要な行動です。

その他
その他の抗凝固薬には、「アルガトロバン」という薬や、「クエン酸」という薬が使用されます。
しかし、症例数が非常に少なく、使用している患者さんも少なければ、私自身も使用した経験がほぼないため、この2つの薬については割愛させていただきます。
自分の体を守るための“知る力”を味方に
抗凝固薬の違いや役割を理解しておくことは、治療を受けるうえで大きな安心につながります。
「なぜこの薬なのか」「どんな効果があるのか」を知ることで、治療の選択が自分ごととして感じられ、納得感も高まります。
透析条件の中では、患者さんとしてはあまり注目しない部分かもしれません。しかし、透析をする上では絶対に必要な薬なので、抗凝固薬を知っておくことは、自分の身体を守る力になると思います。
それでは素敵な透析ライフをお過ごしください。

これはCTAサンプルです。
内容を編集するか削除してください。














